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いろんな感想とか

続けるために推敲はあんまりしないことにした

シン・ゴジラについて

 先日(8/2)『シン・ゴジラ』を観ました。とてもよかったと思います。この記事には若干のネタバレがありますので、とりあえず観てない方は劇場公開されている今のうちに一度観ておくことをおすすめします。あと、間違いがあったらごめんなさい。

 

 とりあえず『シン・ゴジラ』は観ている最中やそのすぐ後にはとても褒めたくなるけれど、何日も後まで余韻の残るようなものではないと思います。それはこの映画が劣っているということではなくて、たんに"そういう"タイプの映画だからです。そして『シン・ゴジラ』が"そういう"タイプの映画になっているのは、①作中に人間ドラマがほとんど存在しないこと、②大掛かりなカタルシスも(意図的に)排除されていること、が理由なんじゃないかと思います。これは『シン・ゴジラ』という映画の評価において肝要なところですから以下で詳しく説明しようと思います。 

 

*①について

 この映画ではシン・ゴジラを退治するために主人公がクセのある部下を集めてなんとか頑張っていく様子を軸に展開がされていくのですが、そのなかに愛や敵対からの友情などといったよくある人間関係の動きは出てきません。全員がそれぞれに淡々と仕事を進めていく姿が描かれ、彼らの家族は会話のなかでさえほとんど出てこないのです。(家に帰れていないことに言及するシーンもありましたが、そこでの問題は家族に会えていないことではなく服や体が臭うことでした。) たとえ東京じゅうが放射能の脅威にさらされても、主人公たちは(少なくとも表面上は)ただ国のことだけを考えていたのです。おそらく現実の官僚と同じように。

*②について 

 ラストのシーンについて、いまいち盛り上がりに欠けるみたいな意見が割とあるみたいですが、まあそれはそうでしょう。中盤の多摩川作戦(?)みたいなやつはけっこう迫力があってなかなか見ものだったのに対して、最後はかなり地味だったしなんならちょっと滑稽にも見えました。しかしそれはおそらくわざとであり、この作品のテーマに深く関わるところでもあります、というのもこの映画で描かれているのはゴジラを除けばすべて現実世界における仮定だからです。

 

 以上のことを考慮して『シン・ゴジラ』を評価すると、その最大の魅力は脚本のバランス感覚だと思います。ポスターなどに現実対虚構というキャッチコピーがついていますがまさにその通りの映画でした。

 たとえば、物語の終盤、シン・ゴジラに対して核兵器をぶち込もうとするアメリカにストップをかけようとするところがありますが、"虚構"だけを描く映画ならばためらいなく核兵器をつかってゴジラを破壊するでしょう。実際、同じ頃に公開されている『インデペンデンス・デイ: リサージェンス』では核爆弾が宇宙船にダメージを与えられない、みたいなところが問題になっているわけで。洋画的な感性でいえば別に核兵器くらいいくらでも打つと思います。でもそこをそれ以外の現実的な方法でどうにかしようとする、あくまで"虚構"はシン・ゴジラ本体だけで、それ以外はあくまで"現実"を描くということです。

 しかしこれはけっこう難しいことだと思います。だって邦画的な感性でいえば核兵器なんてたいへんな飛び道具で、そんなものを登場させればふつう世界観がぶっ壊れてしまうでしょうから(日本は核兵器持ってないからね)。そこが非常に上手いと思うし、実はここで、派手な多摩川作戦で基準を示したことがけっこう効いている。(このあたりは『アナと雪の女王』を観たときに思ったこととつながるのですがそれはまた別の機会に。)こんな風に上手くいっているのは、身も蓋もないけれど結局は脚本を含めた技術的な面の成熟のおかげとしか言いようがない。よくある邦画はそこで失敗していたのですからすごい進歩です。

 それでラストについてもう少し言っておくと、最後のところで核攻撃のカウントをしつこくやらなかったこともとってもよかった。核ミサイルを写したりしなかったことも。主人公たちにはそんなものにかまっている暇はなくて、ただ自分たちの作戦が成功するかどうかで精一杯だったから。主体は何なのかといったような細かい点が非常に徹底されていたと思います。

 ただ本当にほんのすこしだけあるのは、ゴジラの停止後、本当にゴジラ動かない?みたいな緊張感はもうすこしあってもよかったかもしれない、かも。

 いずれにせよ、この映画は従来の邦画にあった映像技術や脚本上の欠陥を乗り越え、日本の政治的なバックグラウンドを元にしてさらに独自の価値観を提示することに成功した、褒めるところ盛りだくさんのたいへんすばらしい"邦画"であり、個人的には邦画文化のマイルストーン的な存在ともいえる作品ですから、ぜひ映画館に観に行かれることをおすすめします。 ぼくももう一回くらい行きたい。パンフレット欲しいし。

 

ひとこと

・国内で武器を使っているわけだし、作中でもよく言及があったので、憲法9条がどうのこうのといった政治思想やイデオロギーとの関連を指摘する感想もあるみたいですが、それはないでしょう。あくまで現状の日本ならどうするかという話ですから。だいいち国歌も日の丸も出てきていないし(たぶん!)。

・3.11の原発事故との関係についての話もありますが、これは多分あるんじゃないかなと思います。最後の冷却のところとか原発冷温停止作業とそっくりだしね。滑稽な演出も説明がつく。もっとうまくやりたかったっていう意味もあるかもしれない。海外の協力とかはねのけて自国の力だけで......みたいな。ちなみにゴジラ第1作は第五福竜丸事件と関係があるらしい。時代を感じるね!

 ・よく言われているとおり、石原さとみはよくなかった。難しい役どころなのはわかるけれどもうちょっといい感じにしてほしかったぜ。ガッジィーラー。